vol. 151 長谷川 千江子(G25)「コロナが気づかせてくれたこと」 – Nanzan Tokiwakai Web
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2020年6月29日

vol. 151 長谷川 千江子(G25)「コロナが気づかせてくれたこと」

 この3月上旬に約3ヶ月過ごしたアメリカ深南部のミシシッピから私は帰国した。
私を出迎えたものは、新型肺炎感染拡大に伴う全ての仕事のキャンセルであった。春、
初夏の観光シーズンのインバウンド向けツアー、そしてオリンピック延期によって、楽
しみにしていた外国ナショナルチームの合宿に関わる仕事も、日本語指導の仕事もすべ
てキャンセルとなった!現在、緊急事態宣言は解除され新しい生活様式を模索し、取り
入れながらの生活にシフトしているが、“コロナ禍”がもたらしたものについて振り返
り、大切なことは何か自ら考える機会としたい。
 
 緊急事態宣言後早々、私の娘夫婦は二人の乳幼児を抱えながら、在宅勤務となった。
当然保育所は休園中のため、オンライン会議中でも容赦なく子供が母親を呼ぶ状況にな
ったりする。そこで急遽、私が二人の孫たちの守役になり、ウーバー Eats ならぬバー
バーEatsにもなった。我が子を育てたのはもう30年近くも昔になるが、日々成長する
幼い子供たちを祖母として見守る中で、やはり人は成長することを喜びとするものなの
だと改めて孫たちから教えてもらっている。そしてそれは何と幸いなことか!
 
 日課となった“ばあや”をしに娘の所に通う時、近所の代々木公園を歩き、明治神宮
を参拝して北参道口から新宿までを歩く。小田急線に乗れば最寄駅から新宿までわずか
5分だが、1時間以上かけて歩いている。これが何とも楽しくわくわくする発見に満ち
ている。そよ風に揺らめく木の葉の囁き、キツツキかと思うような梢のさえずりは耳を
楽しませ、池の亀やひょっこり出くわす小動物たちは目を楽しませてくれる。最近のと
っておきは、3日連続して遭遇した真っ白な蛇である。珍しい白い蛇に異なる時間と場
所で連続して出逢うなんて!近くにこんなにも豊かな杜があるのになぜ今までこの楽し
みを知らなかったのだろうと思うほどだ。
 
 新型肺炎の感染拡大防止の為の外出自粛により世界が狭まるかと思いきや、そうでは
なく逆にオンラインで繋がることのできる海外の親しい友人たちとの再会など、コロナ
以前より私の友人たちとのコミュニケーションは広まり深まった。状況によらず、本当
に人は人との繋がりを求めて生きるものだと改めて感じ、この状況だからこそしっかり
面と向かって会話する機会が増えたことを恵みと思っている。
 
 特に私は以前生活したアメリカのニュージャージー州やミシシッピ州での新型肺炎感
染のパンデミック、そして白人警察官による黒人暴行死亡事件に端を発した様々な社会
問題について友人と話をする中で学び、気づかされたことがある。
 
 私が住んでいた小さな大学の町でも人種差別に対する抗議行動がなされた。それは白
人と黒人が共に平和的に抗議行進を行い共に祈るというものだった。
 しかし、現実問題として、新型肺炎の感染リスクと貧困の関係について考える時、人
種差別問題を抜きには語れない。
 人種差別問題は氷山のようである。海面から上の目に見える部分は平和的な抗議運動
などがある。しかしもっと大きく、深い部分は海面下の目に見えないところにしっかり
存在していて簡単にはなくならない。
 “White Privilege”(白人はそうでない肌の色の人種と比べその肌の色のおかげで利
益を得ている)は存在し、それを甘受している現実。そして”Hidden Lesson on Racism”
(隠された人種差別教育;例えば親は子どもにより良い教育を受けさせたいため、結
局、白人の学校に入れ、その中で育った子供は異なる肌の色の人に対して居心地の悪さ
を覚えるようになる。気づかないうちになされている差別意識教育)という概念。この
概念は白人と黒人に限ったことではなく、日本にも存在する。ミシシッピから日本を
旅行した友人は旅行中何度か疎外感を感じさせる日本人の対応を経験したと話してくれ
た。
 そしてこの様な会話を持つことで、私は自ら無意識に持っている差別意識の存在に気
づかされた。
 
 “コロナ禍”が炙り出したものは、私にとっては色々な気づきとなったが、その善悪
に関わらず、まさに百人百様かもしれない。
 しかし、このような時代だからこそ、人と繋がり、理解し、謙虚に皆が一丸となって
乗り越えて行くことができるよう、そういう賢明さを持てるよう、祈っている。
 
 
長谷川千江子(G25)プロフィール
 1979年 南山高校女子部卒業
 1983年 南山大学外国語学部イスパニヤ科卒業
 南山中高在学中は放送部、水泳部所属
 南山大学在学中はギターアンサンブル部所属
 中日新聞社秘書部、ミシシッピ州立大学ジャパンアウトリーチコーディネター
 (2014-2016)を経て、現在、日本語教師、通訳、ツアーコンダクター
 趣味は孫と遊ぶこと 旅行

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