2009/6 五條珠園・園美日本舞踊研究所 – Nanzan Tokiwakai Web
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2009年6月24日

2009/6 五條珠園・園美日本舞踊研究所

今回は、五條珠園・園美日本舞踊研究所の五條園美(佐藤美智子)さん(G12)にお話をうかがいました。

五條園美さんは、日本舞踊五條流の師範を30年以上され、現在は五條流の理事というお立場に。名古屋市「芸術創造賞」などを受賞。今や愛知を代表する文化人のお一人として活躍されています。


五條園美さん

東京に本拠を置き、全国各地で活動が盛んな五條流ですが、なかでも名古屋は重要な拠点。昭和初期、初代家元の五條珠實(たまみ)師が、西川鯉三郎師ご紹介の 稽古場でお稽古を始められたのが、名古屋での五條流の活動の始まりだそうです。(初代珠實師と鯉三郎師は六代目尾上菊五郎丈の許で兄弟弟子だった間柄)  そこに入門されたのが園美さんのお母様、五條珠園さんでした。3歳のころには園美さんもお母様の許で踊りを始められます。

園美さんが日本舞踊を「趣味」ではなく「仕事」にしようと決心されたのは意外にも30代半ば。南山大学仏文学科をご卒業後、結婚され子育ても一段落された ころ、「自分のリサイタルをしてみたい」と思われたのがきっかけだったそうです。五條流は昭和初期の創生期から「創作性を尊重する」という感覚があり、流 祖珠實師の直弟子であったお母様の許で、園美さんはその感性を大切に磨かれていたのでしょう。身近な日常の感動から、数多くの踊りの題材を発見され、その 創造性を遺憾なく発揮されています。今回、今日までに乗り越えてこられたいくつかのご経験をお聞きするうちに、ますます園美さんの舞踊を「生で観てみた い」という思いが強くなりました。

長唄『あたま山』 『河岸恋猫之唐草』
(かしのねここいのあらべすく)
落語でおなじみの、あたまの上でお花見をする、あのお話!! 愛猫の死を悼んで創作された演目。


原作はミュージカル「キャッツ」の原作本でしたが、実はそれは後から判明したこと。全くの偶然でした。奇しくも「キャッツ」名古屋初演の日に上演されたことから、新聞でも話題になりました。

・・・「五條園美リサイタル」を続けて・・・

「自 分の感情や考えで創りあげた、私自身の踊りを踊りたい」という強い想いからのリサイタル。裏方さん、周囲の方たちやご家族の応援もあって、第1回リサイタ ルは大成功。ところが、第3回リサイタルを前に、何を踊ればよいのか・・・「でも、それがおもしろかったんです。行き詰まったこと自体が」。そこから園美 さんの猛勉強がはじまり、リサイタルは回を重ねます。

大きな転機になったのが第5回リサイタルでのできごと。そのとき選んだ創作の題材は「清流での鮎の友釣り」。矢作川上流の朝もやの中、釣り人の姿の美しさ に感動し、その場で使われていた「長い釣竿」を持ち帰られます。舞台の小道具として使うためです。が、日ごろから尊敬しているある先生がそれを目にされ、 「美意識に反する!」と強く反対。しかし、園美さんは屈することなく自分の「想い」を貫かれたのです。「初めてのけんかでした」。
そして、もうひとつの主たる演目『時の悪戯ータイム・トンネル』は、なんとSF作家半村 良さんの小説からの創作。江戸時代のお姫様がタイムスリップして 現代へ。そこでダンサー演じる現代青年と出会うというお話です。ダンスの担当者、照明や大道具の裏方さんたちの取り組みもどんどん熱を帯び、本番では客席 から異例の手拍子までおこって、まさに楽しさ満載、最高に盛り上がった舞台だったそうです。
ところが、その後待っていたのは、打ち上げの場での尊敬する先生がたからの厳しいおしかりの言葉。あまりの衝撃とつらさに、口から出たのは、おわびと「こ れで、やめます・・・」の一言。すると先生は、「何を言ってるんだ!君に踊りを続けてほしいからこそ言ってるんじゃないか!」と、テーブルをバーン!
「あの日がなかったら、きっと今まで続けてこられなかった」とおっしゃいます。
昨年、第21回リサイタルは、愛知県芸術文化選奨文化賞受賞記念の舞台でもありました。

第21回リサイタルのプログラム
表紙の絵は名古屋造形大学 高北幸矢学長の作品「リトル・ダンサー」より

長唄『静と知盛』
歌舞伎十八番「船弁慶」より
第21回リサイタルにて

『時の悪戯ータイム・トンネル』
半村 良原作のSF小説から。
あんみつ姫みたいな可愛いお姫様

地唄『残月』
2000年、その年の春に亡くなられたお父様を偲び、英語の本を持って舞台へ

・・・若いお弟子さんたちへの想い・・・

去 年、新しく立ち上げられた「桜美の会」(おうみのかい)は、若手のお弟子さんたちを主役にした発表の場。自分たちで勉強して、創作や意欲的な古典舞踊を 踊って欲しい。まず、行動を初めてみて!という園美先生の想いからです。「何をしたいかを自分で決め、音楽をさがし、衣裳、かつら、小道具をいろいろ工夫 して、裏方さんといっしょに練り上げていく。全部、自分たちでするんですよ。それがおもしろいんです。アメリカ人のはく大きなズボンを袴として使った り・・・」と驚くようなアイデアがぽんぽんとび出します。

「自分でやりたい!って思うことが大切。若い人が一生懸命やっていると、世の中が引っぱってくれるんです。失敗してもいいんです。また次にがんばれ!って ね。門下生たちの成長が何よりもうれしい」とおっしゃいます。惜しみなく、全力の愛情で応援してくださるお師匠さんに出会えたお弟子さんたち。なんとも羨 ましい限りです。
・・・数々の賞を受賞して・・・
平成3年に名古屋市文化振興事業団より「芸術創造賞」、平成6年に「名古屋市芸術祭賞」、平成10年に「名古屋市芸術奨励賞」、そして平成19年には「愛知県芸術文化選奨文化賞」を受賞されています。

「五條園美リサイタル」を始められた頃は、「賞」とは無縁、むしろこだわるのはマイナスと考えておられたとか。ところが平成3年、名古屋市文化振興事業団 から突然電話があり、「芸術創造賞」を、というお話。「大変な賞だったのですが、よく知らなくて、はじめはまったく信用しなかったくらい。後で、そんな人 初めてだって言われました(笑)」。受賞によって、踊りの世界以外の文化人の方たちとの交流が増えたことが一番良かった、と園美さんはおっしゃいます。
「遅まきながら気がつきました。プロフィールに受賞歴を載せることで、皆さんが信用してくださるんですね」。今は、踊りを”仕事”にするなら賞を、とお弟子さんには薦められるそうです。
「でも、踊りは”こころ”。一見美しく見えても、表現したいものの心がなければだめですよ。そして自分自身の心をみがかなければ、全部舞台に出てしまうのです」。

オペラ 『異説カルメン情話』

カーテンコールの舞台

セントラル愛知交響楽団、松尾葉子さん指揮のオペラで、演出と振り付けを担当。ソリストたちが衣裳を着て人形振りの日本舞踊をおどり、フランス語で歌う。名古屋、東京、愛知万博で上演された。

・・・幅広い年代のお弟子さんたちと共に・・・

2歳半から80代の方まで、お弟子さんたちの年齢の幅のなんと広いこと。瑞穂区のご自宅、中区新栄と天白区島田の各教室、東京の稽古場で指導されているほか、NHK名古屋文化センターでも20年にわたって子供教室、大人教室を開かれています。
また、現在、南山短大と名古屋芸術大学の非常勤講師として、日本舞踊の「講義と実技」を担当されています。「南山のつながり」もあったのでしょうか、南山 短大からの突然の依頼に驚きと同時に喜びも。「大学の授業としての日本舞踊」というのは画期的なことだったからです。日本舞踊の歴史などを学び、散る花び らを手であらわすお稽古から始め、初心者の学生さんたちも、ちゃんと踊れるようになるのだとか。この魅力的な選択科目を、もう10年以上も続けていらっ しゃいます。

身振り手振りも交えて、いきいきと語られる園美さん。その可愛らしく豊かな表情の源は、きっと日本舞踊への情熱と、お弟子さんたちといっしょに創りあげる喜びにあるのでしょう。

☆秋の発表会のおしらせ
「珠園会」
場所:中日劇場
日時:9月27日(日) 午前11時開演

門下生40余名による一門会。
園美先生はお嬢さんの麗さんとごいっしょに『茶音頭』を。
今回は三代目五條珠實家元もゲスト出演されます。(常磐津『菊の盃』)

◎ご好意により、この会に2名×20組(合計40名)をご招待します。
常盤会事務局までメール又はFAXで、チケット送付先明記の上でお申し込みください。(先着順、7月末日しめきり)

☆今後の活動のおしらせ
1)「体感伝統芸能鑑賞会」
場所:名古屋能楽堂稽古場
日時:8月8日(土)14:00〜15:45

『娘道成寺』を素踊りにて。
ワークショップと茶話会付き。

2)「第10回常磐津一巴太夫一門公演ー傘寿記念ー」
場所:東京・国立大劇場
日時:8月22日(土) 午前11:00開演

常磐津美千巴として常磐津『関の扉』を。
ゲストに、市川団十郎・片岡仁左衛門・坂東玉三郎・朝丘雪路、他。

3)文化庁委託事業「伝統文化子供教室」
幼稚園児から中学生までを対象とする無料の教室。
10月より始まります。
天白コミュニティセンター(土曜日 13:00〜15:00)
多治見(日曜日)ほか。

詳しくはHPをご覧ください。http://sonomi.fc2web.com/

(文:阿部、足立  写真:吉田)

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