vol. 148 津川 園子(G16)「あっという間のドイツ生活30年 ~ドイツの奥入瀬み~つけた~(後半)」 – Nanzan Tokiwakai Web
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2020年3月30日

vol. 148 津川 園子(G16)「あっという間のドイツ生活30年 ~ドイツの奥入瀬み~つけた~(後半)」

あるとき、前庭の手入れを怠って荒れていたとき、いつも犬の散歩をしながら我が家の前を通る知り合いから「庭、荒れ放題ね」と言われた。「そんな言い方をするとは何と失礼な!」と気を悪くした。しかし、その後庭の手入れしたら、今度は「あら~素敵~!いつもの綺麗な庭に戻ったわね」とちゃんとフォローして声をかけてくれたときは、不快な気分も一気に吹き飛んで、とても嬉しかった。
このように、日本では考えられないことを、正直に言われてびっくりすることが多いけれど、陰でこそこそ噂をされたり、悪口が回り回って本人の耳に入ったりするよりは、よほどあっけらかんとして、さっぱりして気持ちが良いと思う。
お互いオープンに言いたいことを言い、本音をぶつけるので、あとから気まずくなったり、根に持つことはなく、翌日には互いにけろっとしている。
 
今となっては「ドイツ人のそういうこだわりがなく、さっぱりしているところが好きだと言えるようになったものの、こちらで生活を始めた直後に起きた出来事は衝撃的だった。
次男が小1のとき、新品の冬のコートに15cmほどもある鍵裂きを作って、学校から帰ってきた。「〇〇君が引っ張って破いた」という。子供のケンカは自然なことで、きっとこの子供たちもそれぞれの言い分はあるだろう・・・。
そう思い、ここはグッとこらえようと思ったものの、コートが新品だったのと、この破れがあまりにもひどかったので怒りが収まらない。
 「ケンカは仕方ないけれど、こんなにひどく洋服を破るのは止めるよう、息子さんに注意してください」と勇気を奮い起こして母親に電話をした。その母親は「ハイ、分かりました。子供に伝えておきます」と言うのみ。
日本から来たばかりの私は「「ごめんなさいの一言もなかったのには」信じられない思いであっけにとられた!
しかし、その後冷静になって考えてみると、ドイツ人は余程の事でない限り「謝らない」。いくら親子であっても、母と子は別人格。母親本人がした行為ではないので謝らなかった?もしくは、息子の言い分を聞いていないので謝らなかったのか?それにしても、日本なら儀礼的に「菓子折り」の一つでも持って謝りに行くのが常識だろう・・・とあれこれ思いを巡らした。
しかし、特に今回のような件では、「菓子折り」を持って行く方も不本意なら、持って来られた方も釈然とはせず、きっと両者とも良い気持ちはしないはずだ。
そう思うと、このような方法で終わる方が双方にとって後腐れなく、すっきり解決するように思えた。
 
近所付き合いや友だち付き合いでも、形式的なことは省く。
旅行から戻っても隣近所にお土産を配る習慣も必要もない。結婚式や披露宴に招かれても御祝儀の金額に頭を悩ますこともない。新郎新婦が、希望する生活用品の一覧表を作る。招待客はその中から一品選んでお祝いとする。
お葬式にも、花1輪持って参列すればよい。
 
人は一人一人違って当たり前という前提で付き合う。他人の考えや意見を尊重して相手の言い分を聞き、自分の意見もはっきり相手に伝える。意見が異なる場合ドイツ人は相手の考えを排除したり無視するのではなく、徹底的に議論を戦わす。
ドイツ人は討論するのがとにかく好きだ。テレビでも、討論の番組がびっくりするほど多い。議論や意見交換をまるでゲームの様に楽しむ。たまに口論になっても、恨みに思ったりなどせず、あくる日にはあっけらかんとしている。
 
ドイツのテレビ公共放送局の番組に、主としてドイツの政治や政治家を容赦なく風刺する「ニュースコメディ‐ショー」がある。たまに文句をいう政治家もいるようだが、大事にはならない。
日本では、考えられないほど辛辣な表現や抱腹絶倒する合成写真やパロディー、それに物まねもある。庶民の政治や政治家への不満を代弁し、うっ憤を晴らしてくれて胸がすくので大人気の番組だ。
新聞でも署名記事が多く一人一人の記者の言論が尊重されている。
公の場でも、仕事のパートナーとも、友人や近隣の間でも、表現の自由があり、言いたいことが言える社会をつくづく羨ましく思う。
 
ドイツでは近所の人たちだけでなく、買い物に行っても、森の中を走っていても人と人のふれあいが多い。
週一回近所の広場に空市が立ち、ジャガイモ屋、卵屋、肉屋、鶏屋、チーズ屋、八百屋、花屋などの小さな売店が並ぶ。客はお店の人と和やかにおしゃべりしながら買い物を楽しむ。市場の日にはいつもより多くの友人や知り合いに出会い、ついおしゃべりしてしまい買い物が2時間にも及ぶこともある。
ネアンデルタールの森の中では、見知らぬ人同士でも挨拶を交わす。
 
犬を連れた品のよいおじいさんや、毎日2時間ウオーキングするという仲の良い夫婦などと何度も出会ううちに立ち止まって話をするようになる。しばらく会わないと、互いにどうしているのだろうと思ったりする。
そうはいっても、とにかく広大な森なので、知り合いにうまい具合にでくわすことは非常にまれだ。
だからこそ、たまに友人や顔見知りに出会おうものなら、まるでくじにでも当たったような気分で嬉しくなり互いに再会を喜び会う。
 
このような、何気ない人と人のふれあいが日々の生活を豊かで楽しいものにしてくれるような気がする。
 
豊かな自然を楽しむことができ、人目を気にせずに自由にものが言え、行動することができるのでのびのび生活ができる。
さらに、オープンで気取りがない人たちと本音の付き合いができることが心地良いため、この地から離れられないのかもしれない。
 
 
 《あっという間のドイツ生活30年(その1)(メルマガ1月号)にも掲載されている
 ネアンデルタールの森の写真が同窓生のお知らせにあります》

メルマガ147号・148号 コラム 津川園子さん(G16)「あっという間のドイツ生活30年」


 
 
プロフィール 津川 園子(旧姓 森)さん(G16)
 
南山大学文学部独語学独文学科卒業
ルール大学ボッフムに留学
在東京ドイツ連邦共和国大使館勤務
ドイツの絵本や児童書の翻訳
音楽専門学校のドイツ語非常勤講師
1990年よりドイツ在住
ドイチェ・ヴェッレのラジオ日本語放送パーソナリティーの台本制作。
各分野の通訳と翻訳(医療、技術、建築、環境、教育、芸術、スポーツ等)。
テレビ番組や雑誌の取材、リサーチ&コーディネート。
TV番組:
ハノーバー万博日本館「紙で建てる巨大パビリオン」のドキュメンタリー番組。
「開運!なんでも鑑定団」: ハンブルグ出張鑑定やドイツ(ヘッセン方伯の城)で
見つかった柿右衛門の壺(番組史上最高の鑑定額)等。
2006サッカードイツW杯での日本代表のTV取材。
「地球街道」(ロマンチック街道)。
「ビーミュージアム」(「ドイツ&オーストリア篇」)、
「石原さとみが巡る『南ドイツ浪漫紀行』」、
「美の巨人」等。

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