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2022年1月23日

vol.167 田内 洵也(K14)「音楽家からの手紙」

 バッハやモーツァルトの肖像画が並び、グランドピアノに陽が当たる。「音楽室」と聞くとそんなイメージが浮かぶが、僕の通っていた高校の音楽室は地下にあった。南山国際高校にはとても立派な小島講堂と呼ばれるホールがあり、そこでは入学式や卒業式、文化祭のステージが行われていた。音楽室はその講堂の地下に位置し、本格的なドラムセットやギターアンプが設置され、どちらかと言うとスタジオの雰囲気がそこにはあった。在学当時、バンド活動ばかりで成績が芳しくなかった私は高校2年生の一学期に「選択音楽」という授業を履修した。噂によるとその授業内容はギター演奏で、当時からギターが心の拠り所だった私がそれを選択するのはとても自然な流れであった。担当は山田信芳先生で、ドイツでオーケストラの指揮をするようなバリバリのクラシック畑の方であった。
当時の私はその先生からクラシックギターで「禁じられた遊び」のような古典的な楽曲を習う授業を想像していたが実際内容は全く違った。最初の授業が始まると教室は真っ暗になり、壁にはプロジェクターからの映像が投射された。白ひげを生やしたミュージシャンが赤い絨毯の上でアコースティックギターを爪弾き、古いブルースを奏でていた。その映像は当時の私を一瞬で虜にした。それから数ヶ月に渡って授業では往年のブルースやフォーク、ポップスの楽曲を通して複雑なギター演奏を教わった。楽譜通りに弾く事の難しさと面白さを私にとって馴染みある音楽を通して山田先生は教えてくださった。一学期を終え、劣等生であった私の通信簿にひとつだけ高評価があった事は今も大切な思い出である。
 
 高校を卒業した私は2年間ほどバイトをしながら海外放浪をして、結果的に大学受験をする事に決めた。高校時代の成績がお世辞にも良くなかった私は音楽活動を売りにした自己推薦という入試形態を選び、色々な書類を用意する為に2年ぶりに母校を訪れた。そこで私の大学受験を知った山田先生は少しでも合格に近付けるようにと推薦状を書いてくださった。推薦状は入試審査官しか読む事できないのでその内容は永遠に謎である。それから数年後、東京で山田先生の訃報を知った時に私はあの「選択音楽」の事や、とても真摯に私の良さを探し、褒めてくださった事を思い出した。実物はなくとも、内容は知れなくとも、あの推薦状は心の中にずっと仕舞ってある。これからの人生で何度もあの推薦状を開く時がくるだろう。私の音楽人生のはじまりに「音楽」を教えてくださった故・山田信芳先生に今一度深く感謝申し上げます。
 
田内洵也 プロフィール
1989年 長野県長野市生まれ
愛知県春日井市とタイ・バンコクにて育つ
2007年 南山国際高校卒業
ギター弾き語りスタイルで国内外でパフォーマンスをしながら、より良い音楽を追求し
続けている。
 
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国際校 山田信芳先生
2014年2月14日にお亡くなりになりました。
国際校のHPには、「南山国際校の開校以来、約20年間、音楽の授業と音楽部の発展に
貢献された山田信芳先生を偲び音楽部主催の『メモリアルコンサート(2015.2.13.)』
が開催されました」と、その様子が掲載されています。
http://www.nanzan-kokusai.ed.jp/news/post_44.html

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