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2023年1月15日

vol.177  藤田 貴子(G50)「ふらんす子育て物語」

 南山常盤会のみなさま、あけましておめでとうございます!
前回のコラムから、もう12年が経ってしまいました。(*欄外URL参照)
 
 当時はまだ見習いでしたが、デザイン画をもとに、型紙を起こすパタンナーとなった今でも相変わらずパリで仕事を続けています。
 
 この10年で少しずつ仕事もステップアップしていますが、私の生活に大きな変化をもたらしたのが、二人の子どもです。上の子は5歳、下の子はもうすぐ2歳になります。
 
 それまでパリコレのショーの前は、夜中まで働くことは当たり前で、ショーの前日はアトリエの全員が朝方まで仕事をしていました。音楽をかけて飲んだり食べたりダンスしたりと、学祭の前みたいな楽しい雰囲気だったので、もちろん眠くなりますが、それでも辛かったことは一切なく、次の日のショーを観て、打ち上げのパーティーに出れば疲れもふっとび、楽しい思い出しかありません。そんな仕事大好きな私でしたが、子どもが産まれてから一変。妊娠中のときから、子どもが生まれたら変わるよ。とアトリエのママンたちに言われていましたが、私は変わらず働く気でいました。
今回は、私が衝撃を受けた、フランスの保育事情をお伝えしようと思います。
 
 フランスの育児休業は待遇がよくありません。
産前産後休暇は6週間+16週間は100%補償されます。赤ちゃんが2ヶ月半になったら、育児休業か、復帰するか、を選ぶことになります。完全育児休業を選択した場合受け取れる補償額は、収入に関係なくなんと月420ユーロ程度のみ!3歳まで延長できますが、これでは、パートナーに充分収入がある場合でないと無理です。日本の育児休業の収入補償がどれだけ手厚いか、他の国と比べてもこれだけの国は見つからないと思います。
 私は二人とも出産後は有休を使った後に時短復帰しました。お迎え時間がぎりぎりだったので残業もできず、また身体を休めるためにも週休3日にしました。そして保育園探しは難航。当時は引っ越したばかりで知り合いもほとんどいなかったので、頼れる人もいなく、専門用語もほとんど分からなく、翻訳機能を駆使して書類を読み込み、拙いフランス語で電話をかけ、泣きそうなほど大変でした。
 
 名古屋の実家に戻って二人とも産んだので、事前登録はしていたものの、パリへ戻ってからの出産登録のため、9月からの入園待機リストから漏れてしまい、途方に暮れていたところ区役所で紹介されたのが、アシスタント・マターネル、通称ヌヌという職業の方たちです。
 ヌヌさんは、フランスの国家資格のベビーシッターさんです。自宅で1-3人の子どもたちを預かることができます。経験によって自分で時給を設定でき、下の子を預けたヌヌさんは3人預かっていて、時短の私の収入よりも多かったように思います。保育園とは違い、家庭的な雰囲気の中でよりきめ細やかな対応をしてくれるので、大勢の子どもたちのいる保育園を敬遠する、比較的裕福な家庭が選択していると思いますが、私たちのように、保育園から漏れてしまった人たちの受け皿にもなっています。まだ子どもが小さかった頃は、子育て経験豊富な先輩ママさんという感じがして心強い安心感がありました。ですが、1歳を過ぎてからは、おもいっきり遊ぶには場所が狭く、遊びにも制限があり、物足りなくなってきていました。そしてやっぱり保育料が高いことが、どうしても続けられない大きな理由にもなってきました。
 
 運良く、二人とも1歳前後には保育園も見つかり、上の子は区立の保育園へ。2ヶ月半から3歳までの園児、大きい子8人、中くらいの子8人、小さい子6人、保育士先生3、4人(5、6人の交代制)1クラスが4つ集まったようなところでした。そして一番驚いたのが、持ち物の少なさです!絶対持ってきてと言われていたのが、おしゃぶりと、ドゥードゥーと呼ばれる、その子が持っていると安心できるぬいぐるみやタオルなどです。着替えはある程度必要ですが、なくなることも多かったし、なければ大量に保管されている園のものを貸してくれます。日本で時々耳にする記名したおむつ、ふとん持参は、フランスの保育園では難しいと思います。
 バカンス大国フランスは、保育士さんのバカンスももちろん取らないといけません。夏とクリスマスのバカンス期間は、子どもたちも少なくなるので、近隣の保育園2、3園が連携し、一つの保育園に集められます。そうすることで保育士さんたちが代わる代わる順番にお休みが取れるようになります。
 ストライキ大国でもあるフランスでは例年の公共交通機関だけではなく保育園も公立の学校も例外ではありません。親の身からしては本当にとんでもないことなのですが、3-5月は毎月数日続いたりして、とうんざりしてしまいましたが、認められていることなので仕方ありません。全国の国の管轄する保育園全体で行い、そして毎年同じような時期で事前に通達され報道もされるので、ストじゃ仕方ないね、と職場の理解もあります。
 それでも外国人の私たちも分け隔てなく、とても親身になってくれて、嫌な思いもしたことがなく、2歳半の卒園まで通いました。フランスでは、3歳になる年の9月からは幼稚園へ通うようになります。長くなってしまうので詳細は省きますが、名前もエコール・マターネルといい、エコール:学校とつくように、保育園とは全く違い、登下校の時間が決まっていて、授業があります。
 
 区立の保育園への不満があったわけではないですが、下の子は、送り迎えの都合で上の子の学校のすぐ隣にある保育園へ行くことにしました。学校のお友達のママさんが紹介してくれて、今度の保育園は区立ではなく、親が組合員となって出資者として経営する組合形式の保育園でした。保育やお昼ご飯の料理以外の雑務はすべて親が担当します。例えば、毎週半日の保育補助、買い物や保育士さんへのお給料の支払いを
含めた会計、次年度の園児募集、保育士さんの人事面談・リクルート、役所の手続や保育園の修繕、おもちゃの管理、洗濯、掃除などなど、役割分担しています。クリスマスパーティーや、劇を観に行ったりする内容もすべて担当する親の会議で決定します。毎月保護者会議(全家庭原則出席、2/3出席がないと成立せず、別に月1理事会)があり、問題を共有して話し合いをして、今後の方針を決めています。これまで4回会議がありましたが、正直なところ、毎回頭フル回転して話を理解するのに精一杯。聞いたことのない難しい単語が散らばり、それらを想像で補完しています。仕事より大変な保育園へ入れてしまったかもしれない、と少し後悔したこともありますが、ワッツアップ(フランスではLINEではなくてワッツアップがSNS連絡アプリで使われています)のグループチャットでは毎日のようにたくさんの写真を共有してくれたり、保育士さんや親同士もお互いファーストネームで呼び合い、会えば笑顔で子どもの成長を一緒に喜んでくれ、保育士さんだけでなく、園に関わる全員で子どもたちを見守っていることを感じます。これまで、外国人として引け目を感じて苦手だった親同士の付き合いに、容赦無く放り込まれた心地で、こういうところで揉まれるのもいい鍛錬させてもらっているなと思います。

 どうですか?フランスの保育園に赤ちゃんを通わせたいと思いますか?
 
 
(* 12年前のコラムはこちらから)
メルマガ vol. 66 (2011年12月21日配信)
藤田貴子「パリのモードとすてきなママンたち」

vol. 66 藤田 貴子(G50)「パリのモードとすてきなママンたち」


 
【 藤田貴子・プロフィール】
 中学生の頃に、手作りのバッグ作りに夢中になり、将来は海外留学し、モードの道へ進もうかなと妄想。
 美大に進もうか迷っていたところ、美大予備校の先生にSFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)を勧められ、在学中は敢えて体験したことのない興味もなかったことも学ぶ。
 就活のときに、やっぱりモードの世界へ進みたいと改めて思い直し、文化服装学院へ入学するも物足りなくなり退学。パリへ渡り、パターンの学校へ通いながら様々なメゾンでインターンを経験。
 運よく就職先も決まり、そのままパリに居続けている。前の上司に誘われて、数ヶ月前に2回目の転職をしたところ。
 
 2007年 慶應義塾大学環境情報学部卒
 2009年 パターンを学ぶため渡仏
 現在、二人の子どもを育てながら、パタンナーとしてパリのメゾンで働いている

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