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2025年5月11日

vol.200 カトリック新潟教区 成井大介 司教(I08)「教皇フランシスコ逝去にあたり」

 教皇フランシスコは、ローマ・カトリック教会が復活祭を祝った日曜日の翌日、4月21日にバチカンで亡くなりました。88歳でした。カトリック教会ではミサの中で必ず教皇のために祈るのですが、皆様が南山在校中、ミサの中で祈った教皇はどなただったでしょうか。教皇フランシスコは2013年から12年間教皇職を務め、南山のモットーである「人間の尊厳のために」にも通ずる、人間を含むこの世界のすべてを大切にして生きる道を示されました。ここでは、教皇の人柄や取り組まれたことなどを少し紹介したいと思います。
 
人柄
 私は2015年から2020年までローマにある神言会本部修道院に住んでいました。そのため、ローマで教皇がどのように受け止められていたのか日常的に耳にしていましたが、素朴で開かれた、ユーモアのある人というのがもっぱらの評判でした。
 教皇は亡くなる二日前まで、ガザの人々を気遣い、ガザの教会に毎夕電話をかけていましたが、教皇は自分で人々に電話をかけることで有名でした。電話に出た人は、いたずら電話かと思うわけですが、実は教皇本人で驚かされるのです。私は二度ほどお目にかかりましたが、昨年4月に日本の司教全員で訪問し、教皇宮殿で迎えてくださったときには、最初に「のどが渇いたら水がありますよ。お手洗いはそっちです」と声をかけてくださり、緊張がとけたのを覚えています。
 
教皇としての姿勢
 新教皇がコンクラーベと呼ばれる選挙で選ばれると、教皇はすぐに名前を決めなければなりません。「フランシスコ」という名は、「ブラザー・サン シスター・ムーン」で有名な13世紀に活躍したイタリアの聖人、アッシジの聖フランシスコから取った名です。貧しく生き、平和を説き、自然を愛し、イスラム教徒と対話し、兄弟愛を実践したこの聖人の生き方は、すべて教皇フランシスコにもあてはまるものでした。
 
 教皇は、何よりもまず、自分自身が貧しさを生きました。教皇宮殿には住まず、バチカンを会議などのために訪問する人のための宿泊施設に住み、小さな車に窮屈そうに乗り、質素な服を着ました。
 貧しい人、困難にある人、特に難民や紛争の直中にある人を助けるために行動しました。バチカンの建物にホームレスのための施設を作り、難民危機の時には難民を受け入れ、またヨーロッパ中の教会に同じようにするよう呼びかけました。聖木曜日には、刑務所や難民キャンプを訪問し、受刑者や難民の足を洗い、その足にキスしました。
 
 教皇庁の大胆な組織改革を行い、教皇庁の省庁は世界の教会を管理するのではなく、むしろ奉仕するためにあるという目的を徹底して意識するようにし、また女性が役職に就いたり決定プロセスに加わるようにしました。
 
 2015年に、回勅『ラウダート・シ』(※)を出して社会問題と環境問題は一つの問題の二つの側面だと教え、この世界のすべてはつながっており、神と、自然と、他者と自分自身が調和のうちに生きるよう呼びかけました。この年は5月に『ラウダート・シ』が出され、9月に持続可能な開発のための2030アジェンダが、そして、12月にパリ協定が採択され、環境についての意識が世界的に高まった年となりました。
 
 2019年11月には、「すべてのいのちを守るため」というテーマで来日され、広島と長崎を訪れ、核兵器の使用のみならず、その保有も倫理に反すると説き、真理と、正義と、愛と、自由に基づいた平和を説き、希望を持ってともに歩むことの大切さを語られました。
 
 2020年、回勅『兄弟の皆さん』を発表し、無条件に人を大切にする兄弟愛について教えました。この文書はイスラーム・スンニ派の最高権威機関アル=アズハルのグランド・イマーム、アフマド・アル・タイーブ師と積み重ねた対話に刺激を受けて書かれています。
 世界が自国中心主義に傾き、攻撃的なナショナリズムが再燃していく中、互いの間に壁ではなく橋を架けること、対話によって平和を構築することを倦む(うむ)ことなく訴え続けました。
 
同じ船に乗って
 教皇フランシスコはコロナ禍が始まった頃、ウイルスが世界中に広がっていき、すべての人に影響を及ぼした状況にあって、「わたしたちは自分たちが同じ船に乗っていることに気づきました」と語りました。以来、教皇は世界のすべての人が「同じ船に乗っている」という表現を度用い、無関心、利己主義、自己責任の文化ではなく、互いをケアする文化を広め、また、この世界の様々な出来事を「あの人たち」や「あなたたち」の事、つまり人事ではなく「わたしたち」の事として受け止めるよう呼びかけました。分断が深刻化する世界にあって、この教皇の呼びかけはますます重要性を増しているのではないでしょうか。

※「回勅」:ローマ教皇による教皇文書の一つ。通常は教皇が信者の信仰生活を指導することなどを目的に全カトリック教会に宛てて送る書簡
※『ラウダ―ト・シ』:「わたしの主よ、あなたはたたえられますように」のラテン語
 
 
プロフィール
 
成井 大介(I08)
神言修道会会員
 
1992年 南山高等・中学校 国際部卒業
1997年 南山大学文学部卒業
2001年 司祭叙階
2020年 司教叙階、カトリック新潟教区司教
 
※2023年3月5日 南山国際高等・中学校「閉校式」を司式
※2023年8月発行 常盤会編纂 南山国際史誌『HOME』の「南国脈」にご寄稿
※2024年10月発行 常盤会会報119号「地球サイズの南山メイツ」にご寄稿

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