vol.203 山野 雄平(S64)「研究者への道」 – Nanzan Tokiwakai Web
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2025年9月8日

vol.203 山野 雄平(S64)「研究者への道」

 メルマガコラムに寄稿する機会をいただき光栄に思っている。現在、私は東北大学で助教をしている。本稿では私がどのようにして研究者の道へと足を踏み入れ(踏み外し?)たのか…近況報告も含めてお伝えしたい。
 
 南山を卒業した私は、愛知教育大学に進学した。その理由は二つある。まず一つは、もともと理科全般が好きで理科教員を目指そうと漠然と考えていたからだ。もう一つは、(父の不適切な行為により)当時の実家は不安定で、家から通えて学費も安く手ごろな国立大学に魅力を感じたからである。そんな考えで大学に入った私は、それなり
に充実したキャンパスライフを過ごしていた。
 
 そんなある日、名古屋大学のI先生が出張で有機化学の授業をされるという話を耳にし、軽い気持ちで受講した。この授業や名大の研究室見学などで本格的な化学の世界に触れ、その面白さ、奥深さに魅了された。ふと気づけば、未知の現象を発見し、新しい技術を開発する「研究者」という職に強い憧れを抱くようになっていた。
 
 大学3年生の終わりに名大の大学院進学を決意した私は、I先生のSNSにDMを送ってみた。今思うと失礼極まりない行動(若さゆえの過ち)だが、先生は快く返信してくださった。ただ、私の年は進学希望者が多く、院試験は熾烈を極めるだろうとのことだった。常人ならここで諦めそうだが、当時の私は「頑張れば行けるってことか!」と楽観的に解釈した。有機化学以外の試験科目は学んだことがなかったので独学で勉強を始めた。その後、すぐに教育実習が始まったことで、昼は小学校で授業、深夜は院試勉強という…少しだけ不思議な“二重生活”を送ることになった。
 
 そして試験当日を迎えた。院試験はテストと面接からなり、面接は専攻の教授が一堂に会した ただならない緊張感の中で行われた。数人の先生の質問に答え、面接も終わろうかという時に、I先生の隣に座っていた先生がおもむろに口を開いた。
「ところで…君は、核酸が好きですか?」
 
 当時、核酸(DNAなど)に対して特別な感情は抱いていなかったが、面白そうだとは思ったので「興味はあります」と答えた。すると、その先生は顔をほころばせて「そうですか!」とおっしゃった。今でもその表情は鮮明に覚えている。結果的に私は院試験の合格ラインへと滑り込んだ。そしてなんと、その“核酸の質問”をしてくださったA
先生の研究室に配属されることになったのである。
 
 A研では、材料や医薬品など多分野への応用が期待される人工核酸を扱い、その性質や機能を光で制御する研究に取り組んだ。配属当初は、研究のいろはも分からない状態だったが、直属の助教 M先生らが自主性を重んじつつサポートしてくださったおかげで、在学中には面白い結果を得ることができた。成果を学会発表する機会にも恵まれ、いくつかの賞もいただけた。中でも名大 豊田講堂での表彰式は思い出に残っている。
 
 そんな大学院生活も終盤となり、修了後の進路を考える時期になった。幸い、日本学術振興会 特別研究員に最後のチャンスで採用され、修了後1年の研究費と生活費は保証されることになったので、アタラクシアを享受すべくアカデミックの道へ進むことにした。せっかくなら新しい環境に身を置きたいと考え、東北大のN研究室に研究員と
して移ろうと考えた。N研を選んだ理由は複数あるが、N先生とは学会で何度かお会いし、顔見知りだったことが大きい。また、N研では、(A研とはまた違った)面白そうな研究が行われていたことも魅力的に思った。COVID-19 パンデミックの時期だったので、面接(就活)はオンラインで行われ、即OKとなった。
 
 大学院進学する際も研究員として移動する際も、私はすべて自分一人で進路を決めてしまった。特に母には多くの心配をかけたと思う。そんな私を、いつ何時も様々な面で支えてくれている母には感謝してもしきれない…。と、筆を走らせつつ改めて思う。
N研移動後は、核酸、光化学、有機化学に関連する様々な研究に取り組んでいる。特別研究員の任期満了に伴い、助教(現職)に着任できたことで、現在まで研究を継続できている。移動後の研究の滑り出しは決して順調ではなかったが、頼れる上司 准教授O先生らのサポートもあり、今では面白い結果もそれなりに得られてきている。Nは学生と教員の距離が近く、N先生自らが手料理を振る舞うホームパーティなどのイベントも研究の良い息抜きとなっている。また、国際色も豊かで、様々な国の留学生と切磋琢磨できた経験は何物にも代えがたい財産だと思う。
 
 助教となった現在は、学生実習やシンポジウム運営などもこなしつつ、直属の学生と実験結果に一喜一憂しながら、研究者ライフを満喫している。今後も化学の発展に資する成果を生み出せるよう頑張っていきたいと思っている。
 
 
【プロフィール】
山野 雄平(S64/南山男子部2011年度卒)
2012年 南山高等学校(男子部) 卒業
2016年 愛知教育大学教育学部 卒業
2018年 名古屋大学大学院工学研究科博士前期課程 修了
2021年 名古屋大学大学院工学研究科博士後期課程 修了
博士(工学)
2020年 日本学術振興会特別研究員(DC2)
2021年 日本学術振興会特別研究員(PDへの資格変更)
2021年 東北大学 多元物質科学研究所 学術研究員(兼任)
2022年 日本学術振興会特別研究員(PD)
2023年 東北大学 多元物質科学研究所 特任研究員(兼任)
2025年 東北大学 多元物質科学研究所 助教
現在に至る
Researchmap:https://researchmap.jp/Yuuhei_Yamano
X(旧Twitter):https://x.com/y_yuhei1018
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