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2008年4月16日

vol. 30 森本 紳一郎(S19)「聴診ってセクハラ?」

大学病院の循環器内科に勤務して30年以上になりますが、つくづく困っていることがあります。
どうにかならないものでしょうか。
循環器内科では心臓病の患者さんを対象にしており、聴診は欠かせません。しかし若い女性の患者さんの大半は、ブラジャーを着けたままです。ベッドの周囲は、カーテンでぐるりと被われているのですが・・・。
「下着をはずしていただけませんか」とお願いすると、エーッというような顔で半分にらまれてしまいます。
以前、ある県立高校の校医をしていた時のことです。毎年春には、生徒の健康診断を行いますが、女性の養護教諭から女子の生徒は、ブラジャーを着けたままでお願いしたいのですがと言われて唖然としました。
下着を着けていると、聴診器と下着がこすれて微妙な音は全く分からないのです。
新入生が300人いると、聴診でおかしいなと思う生徒が必ず2-3人はいます。しかしこれも丁寧に聴診しないと聴きのがします。
弁膜症やある種の先天性の心臓病などは、聴診による心雑音だけで診断をつけることが可能です。もちろんそのためには相当なトレーニングが必要ですが・・・。
達人になるとその重症度まで言いあてます。0.02〜0.08秒程度の細かい分裂音を聞き分けます。
通常心雑音は、患者さんが座ったままの座位よりも、仰向けの臥位の方が大きく聴こえます。したがって、初診の患者さんにはベッドで横になっていただき、2種類の聴診器を使い分けて聴きます。
医療機関を受診する機会がありましたら、聴診器をよく観察してみてください。1本の聴診器が切り替え式で2種類(膜型とベル型)になることを。
低音(周波数100ヘルツ以下)を聴くにはこのベル型に限ります。この時、聴診器を胸にそっとあてることがコツで、強くあてると低音は聴こえません。ただしこれを上手く使い分けているのは循環器の内科医だけですが・・・。
聴診器の発明は、1816年フランスの臨床医のラエネック(Laennec)によるとされています。ある時、彼は妙齢の婦人の胸の上に、自分の耳を直接あてることを躊躇したのでしょう。そこで彼は、机の上にあった紙の束を丸くたばねて、その一端を女性の胸にあて、他端を自分の耳にあてることを思いついたのです。これがラエネックに
よる聴診器の発想と言われています。
ところで、医師は濡れぎぬでセクハラと言われないために、どのように対応しているかご存知ですか?
1対1では診察しないということです。必ず女性の看護師に付いてもらいます。
上半身の診察のみならず、微妙な部位を診察する時はなおさらです。
 
 
プロフィール
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森本紳一郎 (S19)
 岩手医科大学 医学部卒業
 藤田保健衛生大学 医学部内科学 教授
 名古屋大学 胸部外科学 非常勤講師
 専門:循環器内科 心臓病理

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