vol. 45 松本 志保(G12)「ハンマーなるモノを投げてみる」 – Nanzan Tokiwakai Web
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2009年11月9日

vol. 45 松本 志保(G12)「ハンマーなるモノを投げてみる」

 ハンマー談義といきますか。興味ある?
「五円玉の穴に紐を通して、グルグル回し、パッと放すと飛んでいく。原理はそれ。
ホラッ、飛んだでしょ?」
 我が日本の友も、穴の開いたコインが珍しくて私の手元に見入るイタリアの人々も、
「フウーン」
「鉄の玉がついた針金の先を両手で持って回し放す。すると真うしろに飛んでいく」
「えっ?後に?」
サァ、興味が沸いてきた?
 物理学だ。慣性があるから背の方へ飛ぶ。
遠くに飛ばすには、自らが回転してスピードをあげる。連続回転で振り回された針金の先の鉄の玉は、放された途端に円弧の接線を辿り飛んでいく。ハンマーは美しい放物線を描いて宙を飛ぶ。そして青々としたフィールドの芝生に落下し地にくい込む。
 物理が頭に入っていなければ、やみくもに練習しても遠くへ飛ばせない。ハンマー投げ、円盤投げ、槍投げ、砲丸投げを投擲(とうてき)というが、体力以上に頭を使う。
 ハンマー投げを50才になってから始め、十年になる。正直に言うと、「ハンマー投げをやってみない?」と誘われた時は、「エッ?嫌ですヨ」(あの競技は体重勝負って感じだもの)
「ハンマー投げに最適ないい筋肉をしているのに」と相手は根気強い。(カンニンしてよ。この筋肉好きじゃないんだよね)
「二年間トレーニングしたら、マスターズ大会で日本新記録を出すのも夢じゃないよ」
(えっ?日本新記録ということは日本一!?)
「やりたい。日本新記録目指します」と私。
 半世紀生きてきて未経験の日本一。この挑戦をせずしては女がすたる。私は燃えてきた。
 一年半後、念願の日本新記録を達成。激しいトレーニングに倒れたり、吐いたりと、思いおこせば青春スポーツドラマさながらで、「50才を過ぎてやることか!?」と自問していたものだ。
 始めた頃は一回転するのがやっとだったが、今は三回転できるようになり、楽しくもあり、と変化。ちなみに室伏広治選手は四回転を目にもとまらぬ速さで回り、芸術的な美しさ。
 直径2.135メートルのサークルの内で徐々にスピードを上げて回転していくのだが、足運びが難しい。私は四回転したくても年々劣える三半規管がどうにも許してくれない。
 バレエにフェッテという、同じ場所で32回転する高テクニックの技がある。バレリーナの娘と、どちらが凄いかを競う。片や足を滑らせるように移動しながらの三回転の私62才。一方、トゥーシューズの先で立ったままの32回転の娘32才。私は三キロのハンマーを振り回しながら、娘は身軽な自分だけの回転。いい勝負、だと思うのだが。
 ハンマー投げに興じている私を笑い飛ばしているもう一人の私がいて、悪くない気分だ。
 願わくば、ハンマー投げと砲丸投げを混同している方々(何しろ八割以上の人が区別できないのだ)が、これからはハンマー投げなる競技を正しくイメージして頂けますように。
 
 
G12 松本志保さんのプロフィール
早稲田大学建築家卒業。
 ヨーロッパ建築観て歩き1か月(20歳)、家族に内緒でローマに脱出初ひとり 旅(45歳)、以来長期の旅ではニューヨーク1ヶ月、ローマ2か月など、短期の 旅ではアマゾンを含め十数カ国を年に数回。
 マスターズ、ハンマー投げの元日本記録保持。
 現在、知多半島で海小屋暮らし。
 著書に「ファルファッラ」シチリアとアマルフィーの旅 がある。
  http://www.nanzan-tokiwakai.com/public.php

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