vol. 64 杉江 竜太(S48)「なぜ、歌舞伎を観るようになったのか」 – Nanzan Tokiwakai Web
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2011年10月11日

vol. 64 杉江 竜太(S48)「なぜ、歌舞伎を観るようになったのか」

 みなさんは歌舞伎をご覧になったことはありますか?
 
 私は歌舞伎鑑賞が趣味でして、観たい舞台があれば御園座はもちろんのこと、東京・大阪、どこへでも出かけていきます。学生の時は劇場に一人でいますと、おばあちゃまに「若いのに感心だねぇ?」とたまに声をかけられたものです。
15歳から本格的に歌舞伎鑑賞をするようになったのですが、なぜ、歌舞伎を観るようになったのか。諸先輩方で古典芸能に携わっている方が多い中、差し出がましいとは思いますが、一般人からの目線とご容赦いただき、お話しさせていただきます。
 
 
 そもそも私が”意識して”初めて観た歌舞伎は、平成4年10月御園座での八代目福助改め四代目中村梅玉、五代目児太郎改め九代目中村福助襲名披露公演でした。
その時の梅玉の襲名演目であった「伊勢音頭恋寝刃」(いせおんどこいのねたば)が上演されました。
 この演目の中で十人斬りという有名な場面があります。梅玉演じる主人公福岡貢が福助演じる恋人遊女お紺に、実は、貢の為ではあるのですが、愛想尽かしをされてしまいます。お紺の真意を知らぬとはいえ満座の中で辱められ、逆上してしまった貢は仲居の万野をはじめ次々と人を斬ってしまいます。この場面で一般のお芝居や時代劇でみる殺陣とは違う、分かり易く言うと、”本物っぽさ”を感じました。私は普通のお芝居を観ていると小恥ずかしさを感じることがあるのですが、歌舞伎はすんなりと受け入れることが出来ました。
 
 なぜ、すんなりと受け入れることが出来たのか。その大きな理由は祖父母の影響です。昭和60年に御園座で現在の十二代目市川團十郎の襲名披露興行がありましたが、その時の演目で助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)があります。この演目は、普段はプロしか立てない舞台に、一般人が旦那衆の河東節連中として立つことが出来ます。私の祖父母はそんな舞台に参加するほどの好劇家でした。そのもとで”おじいちゃん子・おばあちゃん子”として育った私は、物心つく前から邦楽や日本舞踊、歌舞伎の舞台に連れられていたのです。”意識して”と書いたのはそういう事でして、先ほど書いた河東節のお稽古もなんとなく記憶しています。そんな環境ですから、邦楽の持つリズムというのが自然に身に付いていたのだと思います。
 
 もう一つの理由としましては、私が感じた”本物っぽさ”にあります。この”本物っぽさ”とは、今となって分かることですが、歌舞伎の持つ様式美であり、型というものであったのです。一般的に型とは、役者の演技、動き、せりふ廻しと理解されます。また、広い意味においては歌舞伎の演出全体というものです。
しかし、演出といっても普通のお芝居でいうところの脚本の解釈に立つものでなく、役者の技術や芸に依るものです。
 私は大学時代に歌舞伎を専門にしていまして、実際この型について卒業論文を書きましたが、歌舞伎が持つ面白さは、まさに型にあります。同じストーリーの演目を何度も繰り返し観ていても飽きない。それは演じる役者によって型が違いますし、同じ型でも演じる役者によって全く違うお芝居になります。それこそ同じ役者、同じ演目でも日によって受ける印象が変わってきます。私は正直な感想としては、この魅力は何度か観劇して、ある程度勉強しないと理解できないと思います。
 
 当月(2011年10月)は御園座で顔見世が行われます。私の贔屓である中村吉右衛門も出演します。このコラムで少しでも歌舞伎に興味を持てましたら、是非とも劇場へ足を運んでいただき、この面白さを感じていただけたらと思います。
 
 
杉江竜太さん プロフィール
 日本大学芸術学部演劇学科卒業
 株式会社オーエヌトランス 勤務
 趣味は歌舞伎鑑賞

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