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2013年1月26日

vol. 77 亀井 聡美(G36)「iPS細胞に期待を込めて」

寒中、お見舞い申し上げます。
昨年、皆様のお心に一番残った出来事は何だったでしょうか?
進まぬ震災復興、山積した経済や外交の問題。
日本の未来に大きな不安を抱える中、iPS細胞の生みの親、京都大学、山中伸弥教授がノーベル賞を受賞されたのは何よりも輝かしいニュースでした。

iPS細胞(人工多能性幹細胞)、すでに知識をお持ちの方も多いと思いますが、体の様々な組織や臓器に分化誘導する事が可能な細胞で、皮膚などの体細胞にいくつかの遺伝子を加える事で生まれました。理論的には、事故や病気で失ったり傷めた体の一部を、自分の体の細胞から作ったiPS細胞を使って再生させ、移植する事ができるようになります。
これまでの再生医療は受精卵を利用したES細胞を用いて研究されてきましたが、これには受精卵を使用するという倫理的な問題が伴いました。
iPS細胞は自分の体細胞からできますから、そういった倫理的な問題もなく、他人の組織の移植に伴う拒絶反応の抑制も期待されます。

そのiPS細胞の世界初となる臨床応用が、いよいよ今年、眼科領域で始まる予定です。
具体的には、滲出型加齢黄斑変性症で網膜色素上皮が障害された方に、ご自分の皮膚の細胞で作ったiPS細胞から作った網膜色素上皮シートを移植する治療です。
まだ小さなシートを作って移植し安全性を確認する段階ですので、眼球、心臓、脳など高度な臓器を再生して移植するには今後かなりの時間を要すると思います。それでも人類にとって貴重な第一歩です。

眼科医になって間もなく18年が経ちます。その間に眼科領域の医学は目覚ましく進歩しました。
手術はより簡単で安全になり、治療薬や検査機器がどんどん開発され、以前は失明していた疾患も早期診断、治療により進行を抑える事が可能になりました。
しかし、まだ治す事ができない病気はたくさんあります。

高度の視力障害があって外来を受診される患者さんの中には、日々、失明の恐怖に怯えながら暮らす方がたくさんいらっしゃいます。高齢の方が多く、お身体の不自由さが増す中で視力も奪われる恐怖感は計り知れません。

治療法がない病気は、受診していただいても病状を確認する以外できる事がなく、失明しないか?治らないか?と聞かれるたびに、心苦しく感じています。
でも、今後はiPS細胞を使って、そういう方達の視機能を回復させる事が可能になるかもしれません。

患者さん達にこの様にお伝えできるようになりました。「夢のような細胞を使った目の治療が多分今年から始まります。あなたの病気を治せるようになるにはまだまだ時間がかかりますが、いつかきっと見えるようになる日がくるので、健康に気をつけてとにかく長生きしてください。」と。
今すぐ治せない無力感は残りますが、iPS細胞のおかげで難病と闘う患者さん達にせめてもの『希望』を差し上げられるようになった事を山中教授に感謝する日々です。

亀井聡美 プロフィール

 平成7年 順天堂大学医学部卒業

 同年 名古屋市立大学眼科入局

 平成19年 多治見市に亀井アイクリニック開院

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