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2013年4月30日

vol. 79 丹羽 咲江(G32)「婦人科クリニックを開設してみて」

こんにちは。
G32の丹羽咲江です。
総合病院の産婦人科で10年間勤務した後、もっとじっくり患者さんの話を聞ける、
女性の駆け込み寺のようなクリニックを作りたいと思い、平成14年に小さな
レディースクリニックを池下に開院しました。それから10年、多くの女性が
様々な理由で駈け込んできました。たくさんの悲しい性を背負って・・。

20歳の女の子。いつが最終月経か分からないけど、とにかく中絶手術をして
ほしいと言ってクリニックを訪れました。超音波検査をしてみると、もう妊娠
7か月。中絶はもうできません。彼女の状況をたずねてみると、一人目を5年前の
15歳の時に出産していますが、パートナーはすぐに去ってしまい生活ができない
ので、出産後半年で子どもを乳児院にあずけたということでした。今はアルバイトを
して、いつかその子どもを迎えにいこうと頑張っていた最中でした。今回生理が
遅れていることは薄々気づいていたそうですが、パートナーとも別れてしまい、
誰にも言えず現実を直視できなかった・・と話してくれました。今お腹の中にいる
赤ちゃんは、私のアドバイスを受け入れてくれて、出産後に養子に出すと彼女は
決意しています。

13歳のあまり話してくれない少女。出会いは半年前。その時はまだ小学校6年生
でした。19歳の男の子の子どもを妊娠しそして流産・・。16歳くらいだったら
産みたかったと言います。あどけない顔、でも腕には刺青が・・。そして先週、生理が
3ヶ月こないといって来院しました。今回は産めないと言っています。理由を尋ねて
みたところ、同じ相手から暴力を振るわれ続け、指の爪まではがされてしまったと
いうことです。セックスをしたかったのか尋ねてみました。答えはノー。じゃあ
どうして?と聞いても、自分でもわからないと答えます。
彼女の中絶手術をするときに、今まで受診した女性達の顔が次々に浮かんで、どうして
こんなに悲しい思いをする女性が減らないのかと心が痛くなりました。
でもこれはたった一部のことです。受診した少女達のことをまとめたファイルは、
いつの間にか厚さが辞典ほどになっています・・。

「どうしてこんな状態になるまで相談しなかったの?」と尋ねると、多くの少女は
こう答えます。
「誰にも相談できなかった。」
「性のこと知らなかった。」

悲しみの性ではなく「豊かな性と生」を願い、私は学校や保健所などで講演を
するようになり、昨年は50ヵ所を超えました。そして男子部の中谷先生が主任を
されている私学性教育研究会と共催で、どなたでも参加していただける性教育
セミナーも毎年春と秋に開催しています。

性は人生の質に大きく関わります。中絶、性感染症のみならず、不妊やDVといった
ことも新たな問題としてクローズアップされる今、「豊かな性と生」のために、
そして「人間の尊厳」のために、これからも走り続ける覚悟です。

プロフィール

丹羽 咲江

平成3年3月   名古屋市立大学医学部卒業
平成3年5月   国立名古屋病院勤務(現名古屋医療センター)
平成8年4月   名古屋市立城北病院勤務(現名古屋市立西部医療センター)
平成14年1月   咲江レディスクリニックを開院

国立名古屋病院では主に婦人科悪性腫瘍に携わり、名古屋市の周産期医療センター
である名古屋市立城北病院では、名古屋市内から搬送されるハイリスク妊娠、分娩
などに携わってきたが、もっとゆっくりと患者さんたちと接し、じっくりと話を聞き
ながら患者さんの悩みを解消していきたいと思い、クリニックを開院。平成22年
3月からは、クリニックに思春期外来を開設し、思春期保健相談士3人とともに
思春期の問題に向かい合っている。毎日の診療以外にも、中学校・高校・大学で
性教育、その他にも一般女性を対象に「女性の健康」について講演活動を数多く
行っている。

咲江レディスクリニック院長、日本産婦人科学会会員、日本思春期学会会員、
日本性感染症学会会員、愛知県産婦人科医会経営委員、
WADN(世界エイズデーin名古屋)広報委員、愛知県性教育協会会員、ナーベル会員、
NPO:PROUD LIFE理事、愛知 ・思春期研究会会員

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