vol. 82 新美 康明(S23)「平成に徒然」 – Nanzan Tokiwakai Web
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2013年7月26日

vol. 82 新美 康明(S23)「平成に徒然」

 「新美南吉」。
 について、その人となりまで知る人は、意外と少ない。名前についても「北の賢治、
西の南吉」といわれ、わが国を代表する童話作家のひとりであることも、思いのほか
知られていません。

 そこで生誕100年を機に、故郷の半田市にある記念館や女学校の教諭をしていた安城
の歴史博物館では、記念の展覧会を本年夏ー秋期にかけて開催します。

 私も、安曇野の丘に建ちアルプスを180度展望する文字通り北アルプス展望美術館
(館長をしています)で、「新美南吉の青春」と題した企画展を9月21日ー11月24日
まで開催。南吉の主に学生時代(東京外国語大学)のエピソードをベースに、
あらためて新たな南吉像について、多角的にクローズアップするつもりでいます。

 その一端を、7月22日発売の『別冊太陽』(平凡社刊)に書きました。南吉が20歳
のとき1933年は、映画がサイレントからトーキーに大転換した節目の年で、南吉も
日記に記しただけでも43本もの映画を観ていた。そのことの背景や創作に及ぼした
だろう影響などについて解析しましたので、御一読頂ければ幸いに存じます。

 ところで、いま私の本業、といってもたくさんあるのですが、そのひとつが
“画商”ということになります。銀座で「牧神画廊」を立ちあげて30年あまり。
6、7丁目あたりをいくつか場所を変えて、店舗も大きかったり小さくなったり…。
かつての美術品ブームから今日の危機的状況まで、昭和から平成に到る美術史の
ムーヴメントに直接携わってまいりました。まったく無名の画家を応援することから、
何億もするピカソやルノアール、ゴーギャンなど名品の売買などまで手がけてきました
が、いまはなにかそういったモロモロの喧騒から心身ともに一歩退いた気分でいます。

 「美術品も人が創るものであれば、その価値も作られる」。そのことの人々の生活
自体に及ぼす経済的文化的影響について、今日、日本人はあまりに無頓着かと思い
ます。いわばそうした価値観の喪失が、美術品に対してだけでなく、世の中のあらゆる
出来事、たとえば大切な国家の政策を決めるときにも色濃く反映している。私にはその
ことがなにより情けなく、残念に思われてなりません。

 今年から「地域再生論」の講義を青山学院大学総合文化政策学部でもたせてもらって
います。少し前の世代の、まして昭和の時代のことなど皆目といってもいいくらい
見当がついていない学生たちに、私が幼児だった頃の農村や都会の暮らしをまとめた
ドキュメンタリ―ビデオを観せました。そのいちばんの目的は、人々のとくに子ども
たちの目の輝きの現代のそれとの違いを感じてもらうこと。数年前、「日本の子ども
60年」(主催/日本写真家協会)の写真展でも私自身感じたように、昭和と平成、
現代の子どもたちの目の輝き、表情の豊かさには、あきらかなちがいがあります。
端的にいって、それは生きる実感そして夢や希望を持ちあわせているか、否かという
ことです。が、そのことを疲弊し続ける地方や、都会でも下町の小さな商店街などの
地域再生と、いかに関連づけて考えることが彼ら学生にできるか、それを期待しての
ことでした。

 人が人らしく幸せに生きること。と、それがただ速くて便利さ、消費を至上とする
経済的豊さを追い求めるだけの社会とまったく矛盾しはしないか。はたして調和できる
ものなのか…。私たちはいま至急に解答を迫られています。

 日本人の生活を、世界中の人々が同じようにすれば、たちまち地球の資源は枯渇して
しまう。そのことを、これだけ地球環境の異変が起こっている最中でも、私たちの
多くは見て見ないふりをするか、二の次に考えているかのようです。

 私は、かつて北極圏でイヌイットの人々としばらく生活をともにしました。あの一見
まったく純粋無垢なオーロラと氷の世界でさえ、いま農薬などに汚染され、やがては
資源開発競争の只中に置かれようとしています。

 地球最大の哺乳動物である白クマの親子のその母親が餓死している様を見て、そう
した状況がいつか近い内に人類にも訪れかねないことを危惧しています。

 「極北の神秘」と題して、美術館でイヌイットの彫刻や、版画さらには同年の故・
星野道夫氏の写真展を開催したとき、地元の人々は近くであってもほとんど訪れて
きませんでした。

 いったい自分にとって、社会にとって、本当に必要で価値あるものはなにか…。
いまこそ見極め、自らヴィジョンを創り出し、実践するべきときではないでしょう
か…。

S23 新美康明(かつて南山中・高に新聞部があった頃の部員です)

新美康明 プロフィール
 メディア プロデューサーetc.

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