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2013年12月24日

vol. 86 玉木史惠(G22)「日本における成人の英語学習」

 現在、日本では企業の海外進出に伴い、社会人の高い英語力が求められています。
企業は就職希望者にTOEIC(C)の高得点を求め、社内では英語研修が行われています。
一部の企業の社内英語公用化も話題を呼びました。このような状況下で、日本人の
成人学習者は英語をもてあまし、閉口し、てこずっているように見受けられます。
日本人の成人学習者にとって、最も適した学習法は何でしょう。答えを見つけるため
には、まず日本人学習者の特徴を知らなければなりません。
 私が出会った多くの成人学習者は、次のような特徴を持っています。

1. 内因的(英語ネイティブスピーカーのようになりたいという内から湧き出る
気持ち)であれ外因的(英語力を高めれば昇給や昇進等の褒美がもらえるから学習
しようという気持ち)であれ、動機付けがなされている。
2. 中学時代から少なくとも6年間英語を学習し、基本的な文法事項や語彙を知って
いる。
3. 明確で明瞭な説明と知識を求める。
4. 言語のあらゆる面(音声、統語、意味、語彙等)において、日本語の影響がある。
例えば、音声では日本語の音声の特徴を英語に持ち込み、意味処理では日本語に翻訳
して理解する。
5. 自己(self)が確立しているため、特にスピーキングの際に「不安」がある。

 日本人の成人学習者が英語を学ぶ際には、これらの特徴を考慮した学習法が最適と
言えるでしょう。すなわち、学習意欲を維持し続けることができ、学校教育で身に
つけた文法力と語彙力を活かし、明確で明瞭な説明を得、英語を獲得するには妨げと
なる日本語の影響を排除するアクティビティを行い、口頭運用能力を高め、不安を
軽減して自信を持たせてくれる学習法です。言うは易く行うは難し、という学習法
かもしれません。しかし、たとえ難しくても、学習者は英語力を高めるために実行
しなければなりませんし、教える者はこのような学習法を提供しなければなりません。
では、具体的に、どのようにこの学習法を行なうのでしょう。

 学習意欲を維持し続けるために、成功体験を積むということがあります。例えば、
TOEIC(C)の学習ならテストのスコアアップは大きな成功体験になります。テストのスコア
アップには英語力の他に解答力の向上が求められます。解答力を上げるための技術を
実践します。発音が良くなり、旅行先で買い物ができればそれもまた成功体験になり
ます。日本語とは異なる英語の音声の特徴を学んでから練習することで発音はとても
良くなります。中学校や高校で学んだ文法知識は一生の財産です。せっかく身につけた
この文法知識を活用し、文章を明確に理解できればその後の学習がはかどります。
英語を自動的に処理する訓練として、現レベルで十分理解できるテキスト(具体的には
98%以上知っている語彙で書かれたテキスト)の大量の文章を、意味の固まりごとに
スラッシュを入れながら読むエクステンシブスラッシュリーディング (extensive
slash reading)や、聞こえてくる音声をほぼ同時に、あるいは少し遅れて繰り返す
シャドーイング(shadowing)があります。この2つのアクティビティは英語力向上に
非常に効果的です。口頭運用能力を高めるためには、発話量を充実させる発想力と
聞き手を意識した伝達力を高めることが必要です。そのため、描写したり、理由を
述べたりといった言語機能に焦点を当て、間違いを恐れずスピーキングの練習をし
ます。

 日本における英語学習熱は1世紀以上前から今日まで続いています。世の中には
さまざまな英語教材が溢れ、教材の中には「数日や数週間で英語が簡単に身につく」
といった魅力的な宣伝文句で学習者を惹きつけるものもあります。しかし、残念な
ことに、短時間に劇的な効果をもたらす決定的な学習法はありません。語学の学習は
時間や努力を必要とするものです。学習者は忍耐強く努力を続けなければなりません
し、教える者は学習者の成功を手助けするための努力を続けなければなりません。
英語学習は、努力を重ねた者だけがその果実を得ることができるのです。

玉木史惠(旧姓 久野)

南山中・高等学校、南山大学文学部英語学英文学科卒。テンプル大学大学院で
英語教授法(TESOL)を学び、修士号取得(Master of Science in Education)。
主に企業研修でTOEIC(C)テスト 対策、英語学習法セミナー、スピーキングクラスを
担当。『頂上制覇TOEIC(C) テスト究極の技術トリプル模試』(研究社)を共著。

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