vol. 87 藤田 敏明(S35)「2014年新春に想いを寄せて」 – Nanzan Tokiwakai Web
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過去に配信した「常盤会WEBメルマガ」の記事を掲載しています。

2014年1月24日

vol. 87 藤田 敏明(S35)「2014年新春に想いを寄せて」

南山常盤会会員の皆様、新年明けましておめでとうございます。
私は今この寄稿文をアメリカ合衆国カリフォルニア州ロスアンゼルスの自宅で書いて
います。
人種の坩堝、多様性の極致といわれるこの国での生活が始まった30年前、当時
ロスアンゼルスではオリンピックが開催され、日本の期待を背負った瀬古選手が
サンタモニカの海岸通りを走り抜け、お寿司が「SUSHI」として急速な人気を得て、
カリフォルニアロールという日本では有り得ないメニューが登場し、社会面では今世紀
最大の難病の一つAIDSウィルスが見つかり人々が戦慄した、そんな時代でした。

夢のように歳月は流れ、現在私は日米ファッション業界の仲介業務を主務とする会社と
縫製工場を事業パートナーと共に営んでいます。日々接する従業員、お取引先様、
お客様はその方々の出身国でいえば数十カ国に上ります。「ファッション」と一言に
申し上げても、それは衣類だけでなく食住遊おおよそ人生の全般マターと密接に関係
しているのでお客様からのニーズも千差万別です。英語の意訳は「流行」とされ
ますが、私は「流儀=Style of Life」がこの言葉に相応しいニュアンスだと思って
います。諸外国の方々と仕事やプライベート様々な場面でそれぞれのStyle of Lifeを
語り合い、気付かされた多くのことは長年に及ぶ海外生活で得た貴重な財産です。

その中心にあるのが「日本人として生まれて本当によかった」
言い添えると「ジャパンブランドよ、グローバル市場に打って出るべし」ということ
です。

雲の存在で空の奥行きがわかるように、
窓の外にそよぐ小枝が風の存在を知らせてくれるように、
私はアメリカで生活する事で初めて日本という国と日本人の在り方に気付かされ、
意識しつづけてきました。

お客様との会話も、「日本は最近どうですか?」から始まり「世界で勝負できる
日本人になれるよう頑張りましょう!」と盛り上がる(笑)、私が大好きな時間です。
そして皆様一様にアメリカでお会いしているときは生き生きとしていらっしゃる。
やはり外国で仕事をしているという気概と高揚があるのですね。気が大きくなる、
ということはいいことです。国の外に出てみる、深呼吸をしてそこから自分が居た
場所を眺めてみる、外の世界に何者が居て何を考えているか肌で感じてみる。ときには
自分の非力や未熟さを思い知らされ、ときには自分の力が想像以上に外で通用する
喜びを知る、そして再び日本に帰ったとき、それまでと違う風景をみる自分がいる・・

解っているようで掴み所のない自らのアイデンティティは外から眺めたときの方がよく
見えるものです。これは特に、これからの日本人が持つべき考え方であり、とるべき
行動だと思います。

弊社の主幹業務の一つに「ブランディング事業」があります。「ブランド」の語源は
家畜に押す焼印です。売買するときに誰の商品か一目瞭然の印、それがブランドマーク
でした。今私たちはあらゆるブランドに囲まれて生活しています。前述したように
「ジャパンブランド」の素晴らしさは海外にいるとそれが、一層、わかります。
日本人の勤勉さの象徴である高度な技術力、永い歴史の中で育まれてきた道徳心、
モノだけなくヒトも含めたその総合力をジャパンブランドとすれば、私は自信を持って
「ジャパンブランドはグローバル社会を好転させる力を持っている」と申し上げたい。

ブランド事業とは、「戦略的イメージを駆使して、本質的価値を世の中に広く認知
させること」です。そのためには、「相手」は何者なのか?何を求めているのか?を
理解して、それに応じられる最高品質のものを作らねばなりません。更にそれを相手に
伝える共通言語をもつことが必要となります。視野を広く持ち世界の動きを勉強して、
そこへ自分の力を試しに飛び込んでいく。当然リスク=危機はありますが、危機とは
「危険」と「機会」が合わさった言葉であるように、成功のためには通らねばならぬ道
だと思います。

昨年国論を二分したTPP参加協議の世界的うねりを否定的に捉える方もいるようです
が、私は日本にとって絶好の機会と捉えるべきだと思っています。日本人がDNAの中に
備え持っている「清潔」「正直」「安全」を冠した商品は必ず世界市場で勝負でき
ます。大きな反対声を出している農家の皆様も、世界中でどれほどジャパニーズフード
が信頼され、愛されているかご覧になるべきです。ペットフードに猛毒が含まれ愛犬を
亡くし飼い主が泣き暮れる事件や、家畜を高額で売るため汚染水を飲ませて体重増加
させていた業者が告発される事件がアメリカのニュースメディアで報じられるたびに
思うのです。食に一番求められる安全性において日本は間違いなく世界最高水準である
こと、それに美味い!大いに自信を持って外へ打って出るべきです。

弊社の縫製工場でもジャパンブランドを売り物にしています。従業員は中南米系ですが
日本式運営を徹底し、清潔な構内環境、納期厳守、不良・欠品発生率3%以下、そして
日本製の高品質素材を常備していること、などジャパンカラーを前面に押し出して
います。

面白い話ですが、アメリカ製のカジュアル衣類(Tシャツやジーパン)をお求めになる
日本のお客様は「アメリカ製の少し雑でいい加減な感じや風合いが良い」という理由を
仰います。でも当然、納期や不良発生率は厳しく要求するので、通常のアメリカ工場
だとうまくいきません。解決策は弊社工場、ということです。アメリカの風合いと
日本の管理体制を融合させたことこそ、弊社工場のブランディング戦略なのです。
そしてこれは日本のお客様だけでなく、アメリカ国内でも好評を博し、ポートランドや
ニューヨークのアメリカ企業とも取引が始まっています。

他にもジャパンブランドはあります。岡山県児島市で熟練職人さんの手によって織り
上げられる本藍染のデニム生地はグローバルファッション業界では垂涎の的です。一本
数万?数十万円する高額な商品であっても海外の高感度店からの需要が絶えません。
江戸時代は着物を着ていた日本人が作るジーンズを、そのジーンズ発祥の国アメリカで
高級ブランドとして認知しているのです。

自動車はいわずもがな。誰が戦争に負けた日本人がアメリカ車を越える車作り出来ると
想像していたでしょうか?世界で有数の車社会ロスアンゼルスの道路で見かけるのは
大半が日本車、ミシガン州のデトロイト、モータータウンとして世界自動車産業の
中心に君臨していた街が去年破産宣告をしたことはご周知の通りです。

私の自宅の直ぐ傍にある日本人街にあるラーメン屋も連日超満員、行列ラッシュです。
この数年LA近郊ではラーメン店開業ブームでした。今注目されているのは「MUSUBI=
おにぎり」です。手軽に持ち運べて安価で何でも具に出来る、メキシコ人からすれば
ブリトー感覚、アメリカ人にとってはサンドウィッチ、中東や北アフリカ民族なら
ピタ、というところでしょう、具を包むあの感覚がグローバルマーケットで受け入れ
られたのです。

もしジャパンブランドが国内市場で行き詰まり意気消沈するならもってのほか、
グローバルマーケットには限りない可能性が広がっています。

グローバルというマクロ的視野と、ローカルというミクロ的視野を両眼でバランスを
とって眺める景色が私たちの現代社会です。インターネット空間ではすでに世界中の
情報が行き交い、グローバルコミュニティサイト文化の融合が始まっているし、発達
した交通機関を使えば実際にその土地に行き外国人とコミュニケートを図ることも
容易になりました。グローバルステージで得たものをローカルに持ち帰りマクロと
ミクロを紡ぐ糸を手繰り寄せてみる。昨日までと違う発見や可能性にワクワクする。
そして昨日まで培ってきた経験や伝統の大切さに改めて気付き感謝する。グローバルと
ローカルをバランスよく理解し活用することで生きる活力とエネルギーが身体の底から
沸き起こってくる!

私の会社では、海外で就労したい日本人を実際に受け入れる就業体験プログラムの
ホストをしたことがありますが、希望と不安入り混じる若者たちを迎え入れ汗と涙と
笑顔の研修期間を終えて日本に帰るころの彼らは随分逞しくなっていたものです。
グローバルという感覚を実際の体験を通じその一端でも知る事が出来たという自信に
なったからでしょう。

最近では、日本の取引会社の中堅社員の短期アメリカ体験研修ツアーもお引受けし
後進の育成をお手伝いしています。日本ではあまり言葉を交わすことがなかった方も、
当地に来ると目を輝かせごく自然に会話が弾みます。その後は私が日本出張した際に
気軽に声を掛けていただき、有益な親交が深まっています。研修ツアーに行けて本当に
良かった、また行けるように頑張ります!と力強く仰ってもらえると同じ日本人として
心から嬉しくなります。

ただ一方では、「武器を持たない戦争」と云われる海外商取引で、日本人特有の
内向的な性格で主張負けしてしまう場面や、杓子定規な日本国内事情に縛られ過ぎて
国際的メリットを逸してしまう場面など力不足であったり、考え方をアジャストすべき
課題を私はこれまで多々みてきました。それを自戒と共に、同世代、次世代の日本の
仲間に伝えていきたいと思っています。

私はもう一度声を大にして申し上げたい。日本人が持っている道徳観、高い勤勉性と
技術力=ジャパンブランド=は間違いなくグローバルコミュニティの貴重な財産です。
これまでの世界は、相手を凌駕するための競争だったかもしれません、でもこれからは
共存していくための競争であるべきです。もちろん競争はナンバー1を目指します、
肝要なのはそれをローカルのためだけでなくグローバルが享受できることを目的とする
こと。そして人類だけの都合ではなく育んでくれている自然環境も含めて、持続可能な
グローバルコミュニティを創り上げていく、そのミッションに於いて間違いなく
ジャパンブランドは大きな貢献ができると思います。

昨年末、日本中に元気と自信をくれた2020年の東京オリンピックの開催決定に
しても、国力を上げての巨大イベントを安全にスケジュール通り実行できる能力を、
グローバル社会が信頼・期待しているという証左にほかなりません。「おもてなし」は
英語だとホスピタリティ、世界各国にある観念です。決して日本の専売特許ではあり
ません。それでも日本人の思いやりや優しさが外国の方々に愛されるのは、おもてなす
相手に心から喜んでもらいたいという純粋な動機が伝わるからだと思います。アメリカ
ではチップをもらえるからサービスする、が当たり前の感覚ですし、誰もそれを非難
しない。皆自分が生きるために働いているのだからサービスを受けたらその人にお金を
払う、という感覚です。移民が創り上げた人工国家の合理的なルールですね。一方
日本人は相手の存在自体を尊重し喜んでもらうことを自らの喜びと感じる心根を持った
民族です。どうかこの心=ジャパンブランド=をこれからも日本人が持ち続けて
もらいたいと願って止みません。

人が笑顔になる時とは、それは心の中で合点がいったとき、知識として理解出来た
とき、感情として納得できたとき、ああそうか!わかった!という瞬間だそうです。
笑顔は生きる活力を与えてくれます。

私はジャパンブランドが、日本社会とグローバル社会の多くの方々に広く笑顔を
もたらすことを心の底から信じています。そのためにも、引き続きアメリカでジャパン
ブランド喧伝マンの一人として恥ずかしく無いよう精一杯生きていきます。

2014年。この新しい年が常盤会会員の皆様、ご家族、ご友人の方々にとって希望に満ち
溢れご多幸でありますよう心よりお祈り申し上げております。もしもロスアンゼルスに
お越しの際はどうかお声掛けください。弊社工場でジャパンブランド戦略会議しながら
一杯、いかがですか?

(2014年1月13日)

プロフィール

1983年3月 南山高等学校卒業
同年4月  カリフォルニア大学サンタバーバラ校語学研修プログラム留学(6ヶ月間)
1984年5月 K & A International (Los Angeles)入社
1988年4月 一時帰国し、東京GARAKUTA BOEKI入社(海外仕入部門主任)
1993年9月 Los Angelesに戻りPMW LLC (旧K & A International )
      共同経営パートナーとして再入社
2008年5月 PMW LLC 共同パートナーと共にPACIFIC FASHION WORKS LLC創業
2010年4月 別会社SOCAL GARMENT LLC創業(衣類縫製工場)
2013年7月 繊維専門商社YAGIがSOCAL GARMENT LLCに資本参加し共同パートナーとなる

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